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百田尚樹の「海賊とよばれた男」の文体 [本・ムック]

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海賊とよばれた男 - Wikipedia

遅まきながら、百田尚樹著「海賊とよばれた男」を読み終えた。

2013年4月、第10回本屋大賞を受賞し、上下巻累計で200万部を超えるベストセラーとなったが、単行本は高いので、文庫化を待っていて、さらに文庫の電子書籍もすぐに出たので、そちらで読んだ。

出光興産創業者の出光佐三をモデルにした主人公の国岡鐡造の一生を描きながら、戦後の日本の動きの中で、彼が興した国岡商店が成長する過程を、淡々と描いた伝記的小説だ。

百田尚樹の作品は、これ以外にもいくつか読んでいるが、作品によってかなり文体が違うのを感じる。
東野圭吾なんかもそうだが、おそらく書きたい作品に応じて、最適な文体を選択し、使うタイプの作家なのだろう。
「文体にこだわりがある」というと、独自の文体を持っていて、どんな作品も自分の文体で染め上げるタイプの作家を指すことが多いが、作品ごとに最適な文体を作り上げる作家と言うのも、別の意味で「文体にこだわる」作家なのだと思う。
ただ、そういう作家は、文学賞では、老人作家に好かれないんだよな。

この作品の場合、主人公が、熱血で情熱的な人物像ので、文体まで装飾が多い文体にしてしまうと、読者が暑苦しく感じてしまうと判断したのかもしれない。そこで、作者は、登場人物の内面を冷静に描写しながら、歴史的事実を淡々とたどる文体を採用した。
それは見事に成功しているように思う。
文体が冷静であるがゆえに、主人公を潰そうとする、官僚のまさに官僚的な体質とか、財閥やメジャーのあくどさが際立つという仕掛けだ。

読みながら、この文体と文章のリズム、どこかで読んだことがあるなぁ、と思っていたが、ようやく思い出した。

星新一『人民は弱し 官吏は強し』|新潮社

これだ。SF作家星新一が、父であり星製薬の創業者であった星一の生涯を描いた伝記的小説で、ショートショートの元祖である星新一が書いた異色の長編だ。
この小説の文体が、「海賊とよばれた男」の文体のモデルになった気がするのだ。

描かれる戦前から戦後の時代背景も、主人公を潰そうとする官僚の描き方も、星新一らしい淡々とした文体で描くことで、より際立っていた。
「海賊とよばれた男」も、同じような時代背景であり、同じようなテーマということで、この文体が最適と判断したのではないだろうか。

どちらの小説も、戦前から戦後の、視野が狭く自己保身しかしない官僚と、利権に群がり、楽して利益を独占しようとする大企業の中で、理想を追い求め、消費者や従業員の視点で、企業を経営し続けた傑出した人物の物語だ。

特に、出光佐三氏が、今の時代に生きていたら、果たして、現在の新自由主義が台頭する日本の現状に対して、どういう意見を言っただろうか? 興味が湧くな。

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