岡嶋二人解散後の井上夢人氏が書いたSFミステリーの傑作。
なので、ディテールの積み重ねによりリアリティを出す手法なんかは、「クラインの壺」に似ている面もある。
ただ、「クラインの壺」比べると、本格ミステリー要素よりは、活劇要素の方が強いかもしれない。

女性ばかりを狙う猟期連続殺人鬼に姉を殺された青年。
その青年には、隠れた特殊能力「警察犬を超える嗅覚」が備わっていた。
彼には、「匂い」が様々な色の光る結晶として見えるのだ。

このあり得ない設定を、文章だけで読者に納得させてしまうディテール描写の素晴らしさは、「クラインの壺」の頃に比べても、さらに磨きがかかり、井上夢人の面目躍如だ。

その特殊能力を有効に使い、犯人を探し、追いつめる青年。
そして、終わりに向かう中、その設定が生きる形で、血沸き肉踊る活劇場面も用意されており、最後は安らかに着地し、爽やかな読後感。

設定は思いっきり変化球なのに、エンタテイメントの王道にある小説だと思う。

結構分厚い本だが、一気に読める傑作だと思う。