こちらは、本格SF作家、川又千秋氏による1984年日本SF大賞受賞作で、これも古いな~。



この作品、紙の本は入手困難だが、電子書籍で再刊されており、手軽に購入可能になった。
とっくに絶版になった本が、最近、ぽつぽつと電子書籍で再刊されるケースがあるのは、喜ばしいことだな。
今後も、この動きに期待したい。

名も無き若き詩人が書いた「読むと、恍惚となり別の世界に行ってしまう詩」をめぐる物語。
世界を記述する言語ではなく、世界を創造し、変容させる言語である「幻語」で書かれた「幻詩」という概念を提示する。

幻詩は、呪いのように人の心に取りつき、ドラッグのように人を荒廃させるが、こうした設定は、後のSFホラー「リング」を思わせる。

難解な設定の割には、面白い小説ではあるのだが、ここまで挙げた他の小説に比べると、幻詩のディテール描写が甘い(というか放棄している)。
その点で、リアリティの薄さが小説としての弱点と言えるだろう。

なにせ、小説中に幻詩の冒頭部分が書かれているのだが、「文字による呪い」という割には、書かれた文章からは、ゾッとするようなリアリティの片鱗が全然感じられないのだ。

そのため、小説全体として観念的で、SFではあるがエンタテイメントにはなり損ねていると思う。
もちろん、読んでいて、いい意味で頭脳を疲労させる小説であるのは間違いないのだが。

ここまで4作品を紹介してきたが、いずれも、文章から立ち昇る、あり得ない世界の広がりを想像することが大好きな人には、堪らない傑作群だと思う。

他にも、似たタイプの面白い小説はあるので、再読する機会があれば、改めてまた。