冨田勲の訃報 [音楽]
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「今年は音楽の巨人の訃報が多い」と、今年、何度書いただろうか。またもやそんなニュース。
作曲家の冨田勲さん死去 シンセサイザー音楽の第一人者:朝日新聞デジタル
作曲家で、世界的にも、シンセサイザー音楽の第一人者、冨田勲さんが亡くなった。享年84歳だったそうだ。
冨田勲さんの、最初のキャリアは作曲家で、NHKドラマの「花の生涯」「新日本紀行」などのテーマ曲などを作曲。
また、盟友、手塚治虫からの依頼で「ジャングル大帝」「リボンの騎士」などのアニメ主題歌も多数担当した。
この時代、当然、まだシンセサイザーには出会っていないため、作りだされる楽曲は、ほとんどオーケストラ演奏であり、和楽器なども取り込んだものも多く、武満徹などと並んで現代音楽作家の新鋭でもあったのだ。
ただ、この時代、冨田勲としてのクオリティとして許せない仕事もあったようで、「ジャングル大帝」サウンドトラックの再発売を、なかなか本人が許諾しなかったりしたこともあった。
私はCDも持っていて、たまに聞くが、今でも素晴らしい楽曲だと思うのだが、自分のした仕事に厳しい人だったのだろう。
それ以外にも、「きょうの料理」やニュース番組のテーマ曲CM曲、なども多数手掛けており、実は冨田勲作曲とは知らずに、耳馴染みになっている曲も多いのだ。
ウェンディ・カーロス/スイッチト・オン・バッハ 昔盤/ウェブリブログ
その後、1968年に発売された、世界初の電子音楽によるアルバム「スイッチト・オン・バッハ」(ウェンディ・カーロス)に衝撃を受け、そのアルバムに使用された世界初のアナログシンセサイザー「モーグ」に興味を持ち、1971年には渡米。
どうしても欲しくなった冨田さんは、それを無理やり日本に個人輸入し、音楽創作に取り入れ始めた。
「作家で聴く音楽」第十六回 冨田 勲
この個人輸入を税関で止められる話が、大変面白い。何せ世界で初のものだし、見かけは楽器になんて見えないから、兵器かもしれないと疑われ、税関を通すまでに大変な時間とお金がかかり、もし、後のアルバムのヒットがなければ、とてもではないが個人では返せない借金を、この時背負ったという。
そして、1974年に、全パートの演奏と録音、ミックスダウンなどのエンジニアリングを一人で手がけたアルバム「月の光」を発表した。
この時も、ノンジャンルな音楽性に戸惑い、どう売っていいのか分からなかったそうで、日本のレコード会社すべてに発売を断られた末、米国RCAに持ち込んだら、面白がってくれて、日本より先に米国で発売が決定。
しかも、それが米音楽チャート誌のクラシック部門で1位になって、グラミー賞にもノミネート。
その結果を見て、日本でもようやく発売が決まったという、当時の日本のレコード会社の見る目のなさを示すエピソードも有名だ。
その後は、「展覧会の絵」「火の鳥」「惑星」などのクラシックの名曲をシンセサイザーをベースに再構築した独自の音楽で、世界的な電子音楽制作者の地位を確立した。
「惑星」では、木星から金星のつなぎ部分では、冨田勲の独自解釈で加えた、「2001年宇宙の旅」終盤のボーマン船長がモノリスに遭遇し、スターゲイトに突入するシーンを起想させる音のイメージ描写があり、ニヤリとしてしまう人も多いだろうな。
一方で作曲家としても、並行して活動をつづけ、特に、山田洋次監督の「武士の一分」「母べえ」など、映画音楽を多数手がけた。
冨田勲は、レコーディングエンジニアとしてみると、サラウンド音響設計の先駆者でもあった。
4チャンネルステレオだけでなく、通常の2チャンネルステレオレコード+ステレオセットでも、シンセサイザー音源の左右の音量差や位相差をコントロールすることで、自在に動き回る新しい音像を実現し、後に、本来実現したかった音像を完全なものにするために、アルバムの5.1チャンネルサラウンドでの再発売も進めた。
その集大成が、「サウンドクラウド」と呼んだ屋外の立体サウンド・ライブで、オーストリア・リンツ、ニューヨーク、日本・長良川、オーストラリア・シドニーなど、世界中で音響イベントを成功させ、好評を博した。
年老いても創作意欲は劣れることなく、ボーカロイドにも「自分で使いこなせる楽器としての声」として当初から注目し、2012年には宮沢賢治に想を得た「イーハトーヴ交響曲」を発表したときには、ボーカロイドの初音ミクとオーケストラを共演させ、世間のド肝を抜いた。80歳を超えて、初音ミクに興味が持ち、創作意欲を掻き立てられる老人って凄いよな。
でも、よく考えたら、処女作「月の光」や「惑星」の頃から、シンセサイザーでヴォーカルっぽい音を作り、歌わせていた冨田氏なのだから、初音ミクという「楽器」の登場に大喜びするのは当然だったのかもしれない。
冨田勲×初音ミク「ドクター・コッペリウス」、遺作かつ新作として11月に予定通り上演 - ITmedia ニュース
遺作となる新作「ドクター・コッペリウス」は、「イ―ハトーヴ交響曲」 の続編にあたり、初音ミクとオーケストラのコラボによる音楽とバレエ、映像が一体となった舞台作品とのこと。追悼公演が11月11日~12日に東京・渋谷のオーチャードホールで予定通り上演されるそうだ。
また、彼のもとから、松武秀樹、姫神などの弟子も巣立ち、今の日本のシンセサイザー奏者で影響を受けなかった人はいないと言っていい。
私自身は、リスナーとして、1980年代まではすべてアルバムを持っていたし、よく聴いてもいたが、その後は少し遠ざかってしまった。
振り返ると、どうやら「スターウォーズのテーマ」など、あまりにベタな曲を取り上げ始めた頃から、「こんなの冨田勲がやるべき曲じゃない!」などと興ざめしたのがきっかけだった気がする。
でも、今、1970年代のアルバムから聴き直していて、やっぱり歴史に名を残す凄い人だったんだなと、改めて思う。
改めてご冥福をお祈りしたい。
【追記】
冨田勲さん追悼番組、NHKが放送へ - ITmedia ニュース
NHKは、冨田勲氏の追悼番組として、「NHKアーカイブス 理想の音を追い求めて ~冨田勲さんを偲ぶ~」を、5月29日午後1時50分からNHK総合テレビで放送。「未来を走り続けた冨田勲の音世界」を、5月27日午後2時からNHK-FMで放送。「宇宙を奏でた作曲家 ~冨田勲 84年の軌跡~」を、5月29日午後10時50分から、BSプレミアムで放送。「音で描く賢治の宇宙 ~冨田勲×初音ミク 異次元コラボ~」を、5月29日午前0時50分から、Eテレで放送する。
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作曲家の冨田勲さん死去 シンセサイザー音楽の第一人者:朝日新聞デジタル
作曲家で、世界的にも、シンセサイザー音楽の第一人者、冨田勲さんが亡くなった。享年84歳だったそうだ。
冨田勲さんの、最初のキャリアは作曲家で、NHKドラマの「花の生涯」「新日本紀行」などのテーマ曲などを作曲。
また、盟友、手塚治虫からの依頼で「ジャングル大帝」「リボンの騎士」などのアニメ主題歌も多数担当した。
この時代、当然、まだシンセサイザーには出会っていないため、作りだされる楽曲は、ほとんどオーケストラ演奏であり、和楽器なども取り込んだものも多く、武満徹などと並んで現代音楽作家の新鋭でもあったのだ。
ただ、この時代、冨田勲としてのクオリティとして許せない仕事もあったようで、「ジャングル大帝」サウンドトラックの再発売を、なかなか本人が許諾しなかったりしたこともあった。
私はCDも持っていて、たまに聞くが、今でも素晴らしい楽曲だと思うのだが、自分のした仕事に厳しい人だったのだろう。
それ以外にも、「きょうの料理」やニュース番組のテーマ曲CM曲、なども多数手掛けており、実は冨田勲作曲とは知らずに、耳馴染みになっている曲も多いのだ。
ウェンディ・カーロス/スイッチト・オン・バッハ 昔盤/ウェブリブログ
その後、1968年に発売された、世界初の電子音楽によるアルバム「スイッチト・オン・バッハ」(ウェンディ・カーロス)に衝撃を受け、そのアルバムに使用された世界初のアナログシンセサイザー「モーグ」に興味を持ち、1971年には渡米。
どうしても欲しくなった冨田さんは、それを無理やり日本に個人輸入し、音楽創作に取り入れ始めた。
「作家で聴く音楽」第十六回 冨田 勲
この個人輸入を税関で止められる話が、大変面白い。何せ世界で初のものだし、見かけは楽器になんて見えないから、兵器かもしれないと疑われ、税関を通すまでに大変な時間とお金がかかり、もし、後のアルバムのヒットがなければ、とてもではないが個人では返せない借金を、この時背負ったという。
そして、1974年に、全パートの演奏と録音、ミックスダウンなどのエンジニアリングを一人で手がけたアルバム「月の光」を発表した。
この時も、ノンジャンルな音楽性に戸惑い、どう売っていいのか分からなかったそうで、日本のレコード会社すべてに発売を断られた末、米国RCAに持ち込んだら、面白がってくれて、日本より先に米国で発売が決定。
しかも、それが米音楽チャート誌のクラシック部門で1位になって、グラミー賞にもノミネート。
その結果を見て、日本でもようやく発売が決まったという、当時の日本のレコード会社の見る目のなさを示すエピソードも有名だ。
その後は、「展覧会の絵」「火の鳥」「惑星」などのクラシックの名曲をシンセサイザーをベースに再構築した独自の音楽で、世界的な電子音楽制作者の地位を確立した。
「惑星」では、木星から金星のつなぎ部分では、冨田勲の独自解釈で加えた、「2001年宇宙の旅」終盤のボーマン船長がモノリスに遭遇し、スターゲイトに突入するシーンを起想させる音のイメージ描写があり、ニヤリとしてしまう人も多いだろうな。
一方で作曲家としても、並行して活動をつづけ、特に、山田洋次監督の「武士の一分」「母べえ」など、映画音楽を多数手がけた。
冨田勲は、レコーディングエンジニアとしてみると、サラウンド音響設計の先駆者でもあった。
4チャンネルステレオだけでなく、通常の2チャンネルステレオレコード+ステレオセットでも、シンセサイザー音源の左右の音量差や位相差をコントロールすることで、自在に動き回る新しい音像を実現し、後に、本来実現したかった音像を完全なものにするために、アルバムの5.1チャンネルサラウンドでの再発売も進めた。
その集大成が、「サウンドクラウド」と呼んだ屋外の立体サウンド・ライブで、オーストリア・リンツ、ニューヨーク、日本・長良川、オーストラリア・シドニーなど、世界中で音響イベントを成功させ、好評を博した。
年老いても創作意欲は劣れることなく、ボーカロイドにも「自分で使いこなせる楽器としての声」として当初から注目し、2012年には宮沢賢治に想を得た「イーハトーヴ交響曲」を発表したときには、ボーカロイドの初音ミクとオーケストラを共演させ、世間のド肝を抜いた。80歳を超えて、初音ミクに興味が持ち、創作意欲を掻き立てられる老人って凄いよな。
でも、よく考えたら、処女作「月の光」や「惑星」の頃から、シンセサイザーでヴォーカルっぽい音を作り、歌わせていた冨田氏なのだから、初音ミクという「楽器」の登場に大喜びするのは当然だったのかもしれない。
冨田勲×初音ミク「ドクター・コッペリウス」、遺作かつ新作として11月に予定通り上演 - ITmedia ニュース
遺作となる新作「ドクター・コッペリウス」は、「イ―ハトーヴ交響曲」 の続編にあたり、初音ミクとオーケストラのコラボによる音楽とバレエ、映像が一体となった舞台作品とのこと。追悼公演が11月11日~12日に東京・渋谷のオーチャードホールで予定通り上演されるそうだ。
また、彼のもとから、松武秀樹、姫神などの弟子も巣立ち、今の日本のシンセサイザー奏者で影響を受けなかった人はいないと言っていい。
私自身は、リスナーとして、1980年代まではすべてアルバムを持っていたし、よく聴いてもいたが、その後は少し遠ざかってしまった。
振り返ると、どうやら「スターウォーズのテーマ」など、あまりにベタな曲を取り上げ始めた頃から、「こんなの冨田勲がやるべき曲じゃない!」などと興ざめしたのがきっかけだった気がする。
でも、今、1970年代のアルバムから聴き直していて、やっぱり歴史に名を残す凄い人だったんだなと、改めて思う。
改めてご冥福をお祈りしたい。
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冨田勲さん追悼番組、NHKが放送へ - ITmedia ニュース
NHKは、冨田勲氏の追悼番組として、「NHKアーカイブス 理想の音を追い求めて ~冨田勲さんを偲ぶ~」を、5月29日午後1時50分からNHK総合テレビで放送。「未来を走り続けた冨田勲の音世界」を、5月27日午後2時からNHK-FMで放送。「宇宙を奏でた作曲家 ~冨田勲 84年の軌跡~」を、5月29日午後10時50分から、BSプレミアムで放送。「音で描く賢治の宇宙 ~冨田勲×初音ミク 異次元コラボ~」を、5月29日午前0時50分から、Eテレで放送する。
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タグ:アニメ主題歌 シンセサイザー ジャングル大帝 作曲家 訃報 新日本紀行 死去 花の生涯 NHK きょうの料理 オーケストラ 冨田勲 手塚治虫 リボンの騎士 武満徹 スイッチト・オン・バッハ 現代音楽 アナログシンセサイザー 和楽器 ウェンディ・カーロス 管弦楽 モーグ 個人輸入 税関 月の光 Isao Tomita Clair de lune RCA グラミー賞 ノミネート 展覧会の絵 火の鳥 惑星 電子音楽 jupiter 木星 THE PLANETS 2001年宇宙の旅 スターゲイト 山田洋次 武士の一分 母べえ 映画音楽 サラウンド 4チャンネルステレオ 5.1チャンネル サウンドクラウド 立体サウンド・ライブ オーストリア リンツ 初音ミク イ―ハトーヴ交響曲 宮沢賢治 ボーカロイド ドクター・コッペリウス 遺作 渋谷 オーチャードホール 松武秀樹 姫神 スターウォーズのテーマ
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